投稿

12月, 2020の投稿を表示しています

散文

 知り合いの詩人に中てられて、少しだけ詩を書きたい気分になった。  言葉は魔法だ。  意味を持たない音を表す記号が、列を成して意味を形作る。  意味を持つ記号同士が、混ざり重なって他の意味を成す。   そしてそれらは、時に人を突き動かし、時に人を陥れ、時に人を感動させる。  つまり言葉はという魔法は、人の内面を、行動を、操るだけの力がある。  僕は、人の本質は価値観の集合体だと考えている。  そして、言葉は価値観を創り出し、伝え広める。  だから、言葉という魔法は、人そのものを変えてしまうだけの力がある。  僕は、物語が好きだ。  小説でも、漫画でも、アニメでも、映画でも、ゲームでも、音楽でも、ドラマ、はあまり見ないけれど。  その中でも、小説が一番好きだ。  魔法を織成して、物語は紡がれる。  混ざり気のない小説こそが、物語という大魔法を、一番美しく表している。  勿論、言葉という魔法を、音に乗せて、絵に乗せて、映像に乗せて、体験と共にして、創り出す他の物も同様に好きなのだけれど。  物語の中に生きる人々は、概ね、存在していない。  物語は、在りもしない者達の経験で、人生で、生活だ。  僕らは、存在しない者達に心を突き動かされている。  何処にもいない誰かに、魔法を掛けられる。    ふと、物語を読み、それを反芻している時、不思議に思うことがあった。  素晴らしい物語を読んだ後の、読後感。  あの、自分の心がここに在って、ここに無いような感覚。  一つ、自分の価値感を増やしたという満足感。    これほどの魔法を、存在しない者達に掛けられたのか、と。  ひどく悲しくなってしまった。  何故、彼らはこの世界に在らず、この世界に生きていないのだろうか。    何故、彼女らは、閉じた時の、閉じた世界の中にしか生きられないのだろうか。  「矢っ張りこの世界は理不尽だなあ」、と思考を放棄した。  これ以上を考えたら、何か、帰れない場所に閉じ込められてしまうような感覚。  本を閉じた以上、この物語は、在りもしない者達が紡いだ、何処にも無かった筈のものなのだから。  僕が、哀れんだとて、それは傲慢でしかないのだろうし、全く以って意味の無い杞憂なのだから。  そう言い聞かせて、眠りに就くことにした。    ふと思った。  喩え、全てが嘘だとしても、『魔法に掛けられた』ということだ